NTT、サイトブロッキングの実施を発表

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はじめに

NTTのブロッキング実施の報道発表について衝撃を受けたのですが、周辺知識が乏しいためどういう観点からどういう評価を下せば良いのか分かりませんでした。この記事は自分の理解を深めるために情報収集をした結果をまとめたものになります。誤りの指摘や持論などがございましたら、コメント頂けると幸いです。

ソース

インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について
<2018年4月23日>

日本電信電話株式会社
NTTコミュニケーションズ株式会社
株式会社NTTドコモ
株式会社NTTぷらら

NTTグループは、これまでも安全・安心なインターネット利用環境の提供に努めてまいりました。この度、コンテンツ事業者団体からの要請並びに2018年4月13日に開催された知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議において決定された「インターネット上の海賊版対策に関する進め方について」に基づき、NTTコミュニケーションズ株式会社、株式会社NTTドコモ、株式会社NTTぷららの3社は、サイトブロッキングに関する法制度が整備されるまでの短期的な緊急措置として、海賊版3サイトに対してブロッキングを行うこととし、準備が整い次第実施します。

なお、政府において、可及的速やかに法制度を整備していただきたいと考えています。

感想

「The great firewall of Japan.」

Q. 日本版金盾クルー?
A. DNS{.keyword}ブロッキング{.keyword}ごときを金盾と比べるのはリテラシ{.keyword}を疑う

NTTによるブロッキングの何が許せないのか – Software Transactional Memo

政府が都合の悪いwebサイトを検閲する、中国のような情報統制への第一歩か?と感じたので「The great firewall of Japan」と書いたが、Kumagi氏の言うように、確かにDNSブロッキングごときを金盾と比べるべきではなかった。本場の金盾はもっとエグい(と聞く)。

…とはいえ、大手MVNOが通信の最適化と称した通信内容の改竄を行ったり、その関係で(?)SSL通信の帯域制御までやりだしたので、ちょっと嫌な雰囲気にはなってきている。(5/4 追記)

mineoが通信の最適化だけでなくhttps(SSL)では帯域制御もしているとのことなのでMVNO14社20枚のSIMで試してみた | orefolder.net

これ、違憲では?

日本国憲法第21条2項

検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

電気通信事業法第3条

電気通信事業者の取扱中に係る通信は、検閲してはならない。

電気通信事業法第4条

電気通信事業者の取扱中に係る通信の秘密は、侵してはならない。

ちょこっと調べただけなのでまだまだ関連する法律が存在すると思うが、サイトブロッキングは上記に抵触しているのでは?

 

違法性阻却

違法と推定される行為であっても、正当防衛・緊急避難など特別の事情がある場合には違法とはされないこと。 – 大辞林 第三版

違法性阻却事由

刑法第35条 (正当行為)

法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

例として、格闘技選手が相手を殴ったりしても罰されない、とか。

刑法第36条 (正当防衛)
  1. 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

どれが正当防衛に該当するかは難しい問題で、正当行為ほど簡単な例は見つけられなかった。突然指を捻られたのでこれを振りほどくべく相手の胸を押したら、バランスを崩した相手が後頭部を車にぶつけた(全治45日)。これについて正当防衛が認められた、という判例が存在する。

刑法第37条 (緊急避難)
  1. 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

正当防衛っぽいが、相手に何らの落ち度がないという点が違う。例として、カルネアデスの板問題が有名。

サイトブロッキングは違法性阻却できるのか?

正当行為の観点

利用者視点を踏まえたICTサービスに係る諸問題に関する研究会 第二次提言(案)によると、ISPが料金請求目的で通信履歴を利用する行為は正当行為として認められている。特に、

ネットワークの安定的運用に必要な措置であって、目的の正当性や行為の必要性、手段の相当性から相当と認められる行為(大量通信に対する帯域制御等)

にあるように、ネットワークの安定的運用に必要な措置であれば正当行為が認められる。

さて、海賊版サイトのブロッキングは正当行為か?答えはNOだ。ブロッキングをしようとしまいと、ネットワークの安定的運用には何ら関係がない。

正当防衛の観点

海賊版サイトは、著作者の著作権を侵害している。サイトブロッキングは、これを防衛するためにやむを得ずしなければならない行為だろうか?一瞬、答えはYESか?と考えたが、よくよく考えてみれば正当防衛は反撃行為だ。ブロッキングは反撃行為ではない。よって答えはNOだ。

緊急避難の観点

現在の危難とは、前項にも記したように著作者の著作権(知的財産)が侵害されている、という状態にある。また、やむを得ずした行為で生じた害 < 避けようとした害が成立すれば緊急避難が適用される。ここで、どちらの害がより大きいかという議論は他に任せる(個人的には海賊版サイトブロッキングで生じる害のほうが大きいと思う)。なお、現時点(4/23)では、NTTが指定した海賊版サイト3つのうち2つ(漫画村、Anitube)がアクセス不能になっており、危難は去っている。miomioは現在もアクセス可能だ。

そもそも、ブロッキングはやむを得ないのか?通信の秘密侵害拭えず 海賊版ブロッキング検討 – YOMIURI ONLINEによると、

ほかにとるべき手段はないのだろうか。

(中略)

ただ、著作権の場合、米国のデジタルミレニアム著作権法(DMCA)を活用すれば、名誉毀損やプライバシー侵害のケースに比べれば迅速な対応が期待できる。侵害通知を受けたプロバイダーは事実関係の調査や発信者への確認をする前にまず削除し、その後、異議申し立てなどに対応するのが普通だからだ。

(中略)

ブロッキングの前に、まだまだやることはたくさんありそうだ。

と述べている。DMCAへの侵害報告の内容を確認できるLumenで、www.miomio.tvと検索してみると、1年で1255件、直近2ヶ月では69件の報告がなされているようだ(ちなみに後者69件の報告のほとんどが**一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)**によるものだった)。恐らくもっと多くの違法コンテンツがmiomioにはアップロードされているのだろうし、その報告作業もCODAがほぼ一手に担っており、追いついていないように伺える。DMCAへの報告という点においては、まだ改善の余地があるのではないだろうか。

結局のところ

色んな所でも言われているようだが、やはり緊急避難が争点になってくるようだ。

ちなみに

サイトブロッキング自体は2012年から、児童ポルノ掲載サイトに対して行われている。これはNTT docomoだけでなく、SoftBankその他、ほとんどのISPがブロッキングを行っている。これは緊急避難が認められた例らしい。これでもかなり強引だと思うが、今回の件はそれ以上にゴリ押しの印象が強い。

通信の最適化 (4/24 追記)

2015年中頃にも、通信の秘密が侵害される恐れがあるとして「通信の最適化」論争が起きていた。簡単に言うと、動画像などの大量のデータ通信が発生するものについて、データ圧縮などを用いて負荷を軽減しますよということらしい。

通信の最適化について参考にした

所感

いろんなプロセスすっとばしすぎじゃね?

いくつかの違和感を感じていて、NTTほどの大企業にしては対応が早すぎる気がする。組織が大きくなればなるほどフットワークが重くなり、対応が後手に回りやすくなると思うのだが…実際、ゴリ押し・杜撰という雰囲気が拭えないしね。水面下で色々動いてやがったな?誰が何のためにゴリ押している?

…何にせよ、日本のインターネット史の大きなターニングポイントであることに間違いはない。マジで怖いんだけど。

追記 (4/24)

論争を伺っていると、多くの人が「通信の秘密」を中心に話していて「検閲」についてはあまり触れていなかった。あれ?検閲には当たらないのか?と疑問に感じたので、その定義を調べてみると、

公権力が,表現行為ないし表現物を検査し,不適当と判断する場合には発表を禁止すること。 – ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典

ということだ。そういえばNTTって民間企業だったね。NTTの報道発表については、公権力が(表面上)直接働いていないので検閲の議論にはなりえない、ということだろうか。ただ、3月に政府がブロッキングも検討しているという旨の発表をしているので、これは検閲に該当する恐れがある、ということか。

この追記で参考にした
NTTグループ、海賊版サイトのブロッキング実施へ/19

政府、漫画海賊版サイト「早急に対策」 ブロッキングも検討

4/11

漫画村がサーバーダウン!グーグル検索でも非表示

4/12

海賊版サイトへの対策として政府がブロッキング(接続遮断)を要請することについて[PDF] – JAIPA

4/13

政府、海賊版サイトへの緊急対策案を発表–「漫画村」「Anitube」「Miomio」を名指し

4/16

海賊版アニメサイト「Anitube」がつながらない状態に

4/17

「漫画村」運営側が自ら閉鎖か サーバーに接続できず

4/23

インターネット上の海賊版サイトに対するブロッキングの実施について
<2018年4月23日>

 

その他 参考リンク

(随時追加)